【完】傷だらけのプロポーズ
「あ、私も珈琲飲みたいなあ」
「い、今淹れるね?ちょ、真澄ちゃん、腕離して。 その…あっちのソファーに座ってて?ね?」
「は~い。それにしても朝比奈さんのお家って綺麗ですね。すっごく片付いてる。 男の人の一人暮らしって散らかってるイメージがあったから、意外」
何を、純情ぶっているのだ。男の家になど上がり慣れているに違いない。
大きく深呼吸してから自分の気持ちを落ち着かせ「そう?」と珈琲をテーブルに置く。
今俺は相当動揺している。それを悟られないようにポーカーフェイスを決めているが、彼女は次にとんでもない言葉を口に出す。
「片付けてくれる彼女がいるのかなあって思っちゃった」
「そんなの、いないよ」
ああ、嫌だ。今俺は恋愛の駆け引きゲームに巻き込まれている。
昨日何があったのか記憶のない事に焦っているのに、動揺を隠して平然と振舞う。 自分に染みついた習慣が憎い。