【完】傷だらけのプロポーズ
「す、すいません。降ろしていただけませんか?」
「全く、喧嘩の仲裁にしては男前すぎだろう。 お陰で入っていくタイミングを逃した。」
「あ、あの…!降ろして下さいッ」
「少しは大人しくしていろ、小田切美麻」
抱きかかえられた腕の力は強く、離してくれる気配はない。 というか、どうして副社長が私の名前を知っているの?
ツカツカと音を立てて足早に歩いていく。エレベーターに乗ったが、彼が私を離してくれる素振りさえ見せない。
ガラス張りのエレベーター。さかさまになった世界から東京の宝石のような夜景が一望出来る。 思わずうっとりと見下ろす宝石箱のような夜景。…ってそんな事考えている場合じゃない。
一体私はどこに連れ去られようとしているのだろう。
副社長。 結城 大河のスーツから香る、MISS LILIの香水の甘い香り。
巷では婚活香水と呼ばれている。 嗅ぎなれた匂いだと思っていたのに、つける人によって微妙に変わる香りに頭がやけにクラクラとする。