【完】傷だらけのプロポーズ
奈子の返事も待たずに無理やり通話を切り上げる。今、大河さんの話は中々に都合が悪い。
正直いいかなあ、と思い始めている。 携帯をテーブルに置いて、化粧水に手を伸ばしながら考える。
「大河さんと付き合っちゃおうかなあ。」
水分がさっぱりと無くなってしまった乾燥した肌に、瑞々しい化粧水が吸い込まれていくかのように馴染む。
「…だって、朝比奈にも彼女出来そうだし」
そんな独り言を言ってしまう自分にハッとして我に返る。
どうして私の全てが朝比奈基準なんだろう。 朝比奈に彼女が出来る。 たまたまそこにアプローチしてくれる優良物件の大河さんがいる。
だから付き合うって、それじゃあ大河さんに失礼すぎやしないか。 それに……
ちらりと鏡へと目をやると、顎に出来た小さな吹き出物が気にならない程醜い赤いあざ。
「こんな醜い姿じゃあね…」
私を少しでも美しいと彼が思ってくれているのならば、こんな姿は見せたくない。
彼の中で美しい私のままで居たいとも願う。
やっぱり私のような人間が誰かと生涯を共に過ごしたいと願うなんて無理だ。
自分を愛せない人間に、誰かを愛せるはずがないのだから。