【完】傷だらけのプロポーズ

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「朝比奈さんと渋谷店の真澄ちゃんが付き合ってるってマジですか?! 他店の女の子から聞いたんですけど!」

数日後、そんな噂が社内に流れていた。LILI BULE社内だけではなく、東日百貨店のテナントの主に若い独身女性社員はその話で持ち切りだった。

朝比奈の影響力の大きさを改めて思い知った。

「マジですか?美麻さん!」

「そんなの知らな~い…」

工場から届けられた新作のサンプルをまとめながら、ぼんやりと佐江ちゃんの話を聞き流す。

あれから朝比奈とは話をしていない。別に話す事なんてないし、家に行ってもし真澄ちゃんが居たらそれはそれでダメージを受けそうだ。 それに朝比奈が家へ訪ねて来る事もなかった。

「…何をそんな他人事みたいに…」

私の手を止めた佐江ちゃんは、神妙な面持ちでこちらを見やる。
ぷいっと視線を逸らして、テーブルの上に並べられたサンプルに再び目を向ける。

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