【完】傷だらけのプロポーズ
『朝いちで北海道から帰って来た。 白い恋人買ってきたよ。
それはそうと突然なんだけど、今夜時間ある?』
これ以上の関係を望んでいないのならば、嬉しくなってはいけないはずなのに。
着替えも中途半端なまま、携帯のメッセージの返信を打つ。 化粧ポーチからファンデーションとリップを取り出して慌てて化粧直しをして、更衣室から出て行く。
社員の通行口の入り口で、彼は携帯に目を落として私を待ってくれていた。 嬉しくなってしまってはいけないと思いつつも、彼の姿を発見した途端心が躍る様に鼓動を刻みだした。
走り出そうとした、その時だった。
「ぎゃ!!」
思いもよらない色気のない声が出てしまった。 着ていたコートの首根っこを掴まれ、恐る恐る後ろを振り返る。
そこには、スーツを着て髪もワックスできちりと整えられている仕事モードの朝比奈が立っていた。 パッと私のコートから手を離すと、ブラウンのコートのポケットに両手を入れて不愛想な顔のままこちらを睨みつける。
「何よ…驚いた。何でここにいんのよ」