【完】傷だらけのプロポーズ

いや、それも変な話だ。 ここは東日百貨店全社員共通の通行口、朝比奈が居てもなんらおかしくない話なのだが。

そういえばこうやって向き合うのも久しぶりだ。 何となくあの日真澄ちゃんの一件があって以来朝比奈とは距離を置いていた。 連絡もしなかったし、わざわざ会いにも行かなかった。だっていつものように突然会いに行って家の中に真澄ちゃんが居たら嫌だし…。

「仕事が終わったようだな」

「ま、まあね。今日はオープンから出勤してたし」

「俺はこれから顧客の家に訪問しにいく」

「あっそ。それはそれはお忙しい事で。 では私は用事があるので」

何故かよそよそしくなってしまう。話を早々に切り上げて早足でその場を去ろうとした瞬間、再び朝比奈の腕が私の前へと立ち塞がる様に降りて来る。

「何だよ、またあいつが来てやがるじゃないか。今からデートかよ」

ここでの’あいつ’は大河さんを指している。 遠目から見た彼は私や朝比奈の姿に気が付く事はなく、携帯と腕時計を交互に見つめていた。

この状況にひやひやとしながらも、顔を上げてキッと朝比奈を睨みつける。けれど彼が怯む様子は見受けられない。

「朝比奈には関係ない」

「何だよ…お前…突然連絡もくれなくなって家にも来なくなって」

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