【完】傷だらけのプロポーズ
さっきまで強気だった朝比奈の声のトーンが僅かに小さくなる。 口を一文字で結び、不機嫌そうに顔をしかめる。
何だ、こいつ。 連絡をしなくなったのも、家に来なくなったのも朝比奈だって同じじゃないか。むしろこっちは気を遣ってるんだ。 朝比奈に新しい彼女が出来そうで、しかもその彼女を大切にしたいって思っているのならば…将来を考えているのならば、その邪魔はしたくない。
こっちだって気を遣ってやってんだ。なのにどうしてそんな寂しそうな顔をするのよ。
「だって朝比奈…彼女が出来そうなのに邪魔しちゃ悪いじゃんかよ…」
「いや、それは…違う…!」
「違うって何がよ…。」
「彼女とはその何だ、アレだアレ」
どれだよ。しどろもどろ口を開く朝比奈は、いつになく焦った顔をする。
不機嫌そうだったり、悲しそうだったり、焦っていたり、近頃の朝比奈の考えている事が分からない。
ふぅっと小さく息を吐くと、ジッと私を見下ろしながら困った様に大きな瞳を揺らす。 朝比奈が朝比奈らしくないとこっちの調子が狂う。 いつもみたいに毒舌の一つでも吐いて私をからかってくれれば、言い返せるのに。