【完】傷だらけのプロポーズ
大河さんに腕を掴まれて、そのまま歩き出す。
もう後ろは振り返らないでおこうと決めていた。 だけど、ちらりと振り向いてしまった。
きっと、朝比奈は意地悪な顔をしているに違いない。 振り返った私を見つめ、馬鹿にした笑みを浮かべている。
てっきりそう思っていたのに、朝比奈はその場で立ち止まり背を丸めて下を向いていた。 握りしめた拳は、私とお揃いだった。
大きな目を見開いて無表情のまま、薄い唇を噛みしめていた。 15年も一緒に居た。朝比奈の表情を見ただけで、どんな気持ちかは手に取るように分かってしまうのだ。
朝比奈はいつものように笑ってはいなかった。 悔しそうに唇を噛みしめたまま一切私に目を合わそうとはしなかった。