【完】傷だらけのプロポーズ
そのままエレベーターに乗り込み、ぎゅっと締め付けられる心臓を押さえつけた。
ワンピースからは、彼の残り香MISS LILIがふわりと香る。
傍から見ている分には、素敵な人だと思っていた。 けれどあんな軽薄な男性だったなんて。
何にしても今日はツイていない。 パーティーは途中だがもう帰ろう。 あんな騒ぎを起こしてのこのこと顔を出せる程面の皮は厚くない。
エレベーターのガラスに映った自分のやけに冴えない顔。 塗りたくったファンデーションのせいで肌が息をしていない。
早急に自宅に帰り、メイクを落としたい。
それにしても一体何だったんだろう…。まだ心臓がドキドキいっている。
素敵な男性だからといってうかつに抱かれる訳にもいかない。 この歳になって遊ばれるなんてごめんだ。
貞操観念がある、といった理由でもなく、今日はフルでメイクを出来るメイク用品を一式揃えていない。
私には、メイク用品一式がないとシャワーも浴びれず、汗もかけないといった秘密があった。 それは貞操を守るよりも、私にとってよっぽど重要な事だった。