【完】傷だらけのプロポーズ
自分に身に着いた習性が憎い。 何とも思っていない女なんだから、適当にあしらっておけばいいのに、八方美人の性格は直らないものだ。
作り笑いをして別れを告げようとした時だった。 真澄はもじもじしながら下を向いて何か言いたげに顔を上げた。
黒目がちな大きな瞳がジッとこちらを見据えて、グロスの塗られた小さな唇がゆっくりと開く。
「朝比奈さん、良かったら家に上がって行きませんか?」
言った後に少しだけ顔を赤らめる。 可愛い顔をして可愛い事を言ってくれるもんだから、動揺しないわけなかった。
俺だって男だ。
これだけの可愛い女性から誘われて心が揺らがないわけでもない。 でもその度に美麻の顔が脳裏に浮かび上がる。
「いや、ごめん。明日も仕事で早いから…」
「ちぇ…朝比奈さん、いっつもそればっかり…」
「ごめんね、真澄ちゃん。」
拗ねた素振りを一瞬だけ見せたが、彼女はすぐに笑顔になる。
「謝らないで下さい。 私、これでも朝比奈さんの気持ちは分かってるつもりですから」
「俺の…気持ち?」