【完】傷だらけのプロポーズ

高校生になって初めての彼氏が出来た時も一波乱あって、大学に入っても何となく側に居られて、そしてやっと解放されると思っていた社会人。就職するまで勤務先まで一緒だという事は秘密にされていた。

まさか東日百貨店の営業マンになっているなんて、入社して数日で人生のどん底に叩き落された気分になった。

そして何故か就職を機に一人暮らしを始めたマンションまでお隣同士。 これには、訳がある。


朝比奈の母親と私の母親は、古くからの友人関係で、このマンションさえも二人の目論みにより一緒にされた。

女の子の一人暮らしは危険よ。夏樹くんと同じマンションならば安心だわ。と何故か母から絶対の信頼を得ている朝比奈。

そういった理由により、この15年…私と朝比奈はほぼ離れた事がない。



洗面所に行き、鏡に向かい合い丁寧にメイク落としを顔に滑らせていく。

時間を掛けてメイクを落とし、洗顔を泡立てて顔に充てる。 メイクを落としたスッピンの自分の顔を見て、また一つため息が漏れる。

もう28年間も自分の顔と向き合ってきたのに、未だに折り合いがつけられない事がある。

その折り合いのつけられない事こそが、朝比奈だけが知っている秘密なのである。 何があろうとも、私は家族と朝比奈の前で以外メイクを落とさない。

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