【完】傷だらけのプロポーズ
「きゃあ…!」
一人の女性が私の顔を見て、大きく声を上げた。 その瞬間真澄ちゃんも、真澄ちゃんと取っ組み合いの喧嘩をしていた女性も動きを止めて、こちらへ注目した。
この好奇の視線は、昔から知っていた。 ’可哀想’ ’醜い’ ’汚い’ あの頃向けられた言葉たちが、全て傷になっていった。
下を向いて、両手で頬を隠した時だった。
ふわりと頭の上から掛けられたジャケットからは、昔からよく知っている匂いがした。
「馬鹿らしい…!ガキくせぇ事ばっかしてんじゃねぇ…!」 そう怒鳴った声が耳に響いた瞬間、ずっと堪えていた涙が溢れだした。
私はこの声を知っている。 それは15年間どんな時でも一緒に居てくれた人の声だ。
私の頬を取り囲む赤いあざを知りながらも、ずっと知らない振りをして、私を無言で肯定してくれた人。
ずっとずっと、知っていた。
「結城社長、失礼させて頂きます」
私の傷跡をジャケットで守ってくれたまま、手を引かれ颯爽とその場から駆け出す。
玄関から家を飛び出して、エレベーターにそのまま乗せられた。 朝比奈の大きな手には、じんわりと汗が滲んでいた。