【完】傷だらけのプロポーズ
周りから誰も居なくなった空間、それでもジャケットを頭から羽織ったまま顔を上げられなかった。 顔中水と涙でぐしゃぐしゃになっていた。
朝比奈は私に背中を向けたまま、何も言わなかった。
この15年間、朝比奈の無言の優しさに何度救われただろう。
「あさひ…な…ごめん」
「何が…何を謝る事がある…。 逆に下らねぇパーティーを抜け出せた事に感謝しているよ。」
ぶっきらぼうな言葉の裏に隠された、朝比奈の優しさをずっと知っていたのに。
ずっとずっと一緒に居てくれた。
出会った時から、朝比奈が私の頬のあざに触れる事は一度もなかった。
あえて言葉にしてくれないでいた事を知っている。 だから朝比奈の前でだけ素顔で居られた。
その朝比奈が、この日初めて私の傷跡に触れたのだ。