【完】傷だらけのプロポーズ

ぷつりと電話が切れて、取り残される部屋の中。

テーブルの上にぽつんと置かれた結婚指輪を見つめると、静寂に静まった部屋の中がちゃりと鍵の開く音が聴こえた。

何度こうやって同じ事を繰り返してきたのだろう。 それは長すぎる程俺の元へ舞い落ちた初恋。


結婚指輪の箱を握り締め、立ち上がり玄関まで走る。

玄関のドアを開こうとすると外側から開いたらしく、その場ですっ転びそうになる。 つま先で何とか踏みとどまり顔を上げると、そこには目を真ん丸にした美麻が立っていた。

「何やってんの…」 それはこっちの台詞だ。 いや、今はもうそんな事はどうでもいい。

きょとんとこちらを見つめる美麻は、何故かすっぴんだ。 すっぴんというか、いつも出掛ける時は必ず隠している頬のあざが露わになっている。



出会った頃を思い出す。 

隣の席。 背筋を伸ばして椅子に腰をおろし、すました顔をしていた。

真っ白い肌にはひと際目立つ赤いあざが頬にあった。 ちらりとこちらを見つめた視線。 大きな瞳に整った顔立ちで、直ぐにそれに目が奪われて頬のあざは全然気にならなかった。

当時から素直じゃなかった俺は、彼女に見つめられて口を出た言葉はコレだ。

< 252 / 271 >

この作品をシェア

pagetop