【完】傷だらけのプロポーズ
佐江ちゃんの情報網は凄い。 この東日百貨店の色恋沙汰であるならば大抵彼女に訊けば最新情報が手に入る。
歩く週刊誌。
そして朝比奈はモテる。 中学時代から、ずっとモテていた。
私はそんな朝比奈の歴代彼女を見続けている。 一貫して長続きした事はなし。
東日百貨店に就職してからも、どこどこのバックで有名なブランドの美人さんや、有名アパレルブランドに勤める新入社員だとか
女の噂は絶えない男だった。 だから朝比奈と噂を立てられる事は大きな迷惑でもある。 彼にとって私は恋愛対象外なのだと思う。
15年間ずっと一緒に居たって、男女の関係になった事は一度もない。 昨日のように深夜に互いの家に行き来をしても、だ。
それにしても副社長との噂の件については頭が痛い。本当に何もなかったのに。
そう考えながら、お店にやって来たお客さんに声を掛ける。
「こんにちは、何かお探しでしょうか?」
アイシャドウ売り場をキョロキョロと見回しているのは、私よりずっと若い20代前半位の女性だった。
少しだけ挙動不審。 その気持ち分かる。