【完】傷だらけのプロポーズ
「危なッ!」
クリーム類の隣には、香水とヘアーミストのガラス瓶も並んでいた。 慌ててしゃがみこみ、商品を拾う。
良かった~…。ガラスのビン類が落ちたら大惨事になる所だった。
ボディクリームとハンドクリームを拾い上げて、丁寧に布で磨き元にあった場所に戻した。
人気の少ない店内で、従業員達がこちらを見てざわついている。
目の前を立っている人を、ゆっくりと見上げる。
「…お疲れ様です」
「風邪でもひいたのか、マスクなんてしちゃって」
「いえ、これはちょっと…」
どうしてここに居るの?!
目の前に立っていたのは、結城大河その人だった。
副社長が個店舗に顔を出すなんて話は余り聞かない。 さらりと見回ったりはするが、声を掛けたりもあまりしない。
深いダークブラウンの瞳を優し気に揺らして、ネイビーのスーツを着こなす彼を見つめ、ハァっと小さくため息が漏れる。
今最も会いたくなかった人物だ。 あんな形でホテルから逃げるように去ってしまった。 同僚たちの視線が突き刺さる。 慌ててレジカウンターに戻ろうとすると首に巻いていたスカーフが思いっきり掴まれる。