【完】傷だらけのプロポーズ

「ぐぇッ!」

「そんな慌てて逃げる事あねぇじゃないの」

何こいつ、私の事殺す気。 掴まれたスカーフを結び直し、彼に向かってわざとらしい咳ばらいを一つする。

「店長でしたら、本日はお休みですが」

「別に店長に会いに来た訳じゃないし、君に… 小田切美麻さんに会いにきたのだけど。
休憩はもう終わった?良かったらこれからランチにでも行かない?」

はぁ?!行くわけないでしょう?それこそどんな噂を立てられるか分かったもんじゃない。 それに今日の私は息が臭いのよ。朝比奈のニンニクたっぷりの餃子のせいで。

「申し訳ありません、副社長。 私はまだ業務が残っておりますので」

「だから大河だけど」

それはこの前も聞いた会話だ。 どことなくこの人とは話が噛み合わなく、困ってしまう。

にこりと笑顔を崩さぬままさり気なく断っているつもりなのに、彼は強引に話を進めようとする。

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