【完】傷だらけのプロポーズ

確かに結城社長は、元々水鏡堂の社員で普通のBAだった。
けれどもその頃からカリスマ化粧部員と言われ、メディアに引っ張りだこだった。

そして数年前LILI BULEを立ち上げ、いつしかLILI BULEは水鏡堂の顔となる化粧品ブランドまで急成長した。

「それとも、君には心に決めた男性が既にいるのか?」

「そんなのは、いないですけど……」

数年前付き合った彼を境に色恋沙汰にはめっきりご無沙汰だった。
と、いうか既に諦めていた。

結婚どころか恋愛さえ諦めて、仕事に生きようと決めたのだ。

だって私は、もう男性の前で自分を曝け出す事は出来ないだろう。 ちっとも痛くない筈なのに、冬の風に晒されて見えていない筈の右頬のあざがズキズキと痛みを持っている錯覚に陥る。

心を落ち着かせるようにホットコーヒーを慌てて口に含むと、彼はとんでもない提案をした。

「それならば都合が良い。俺と付き合ってみないか?」

ブッと口に含んでいたコーヒーが口から飛び出して、器官に入ってしまい思わず蒸せる。

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