【完】傷だらけのプロポーズ
「ゴホッ、ゴホッ!」
「大丈夫か?慌てて飲むから。 意外にそそっかしいな」
「あなたが…変な事を言い出すから…!」
「変な事…? 真面目に交際を申し込んでいるんだが?
別に無理強いをするつもりはないけれど、恋人がいないならばお試しで付き合ってみるのもアリじゃないか?
俺が嫌ならば別れれば良い話だし。」
「んな、お互いの事を何も知りもしないのに…」
「これから知って行くために付き合うのではないか。意外に頭が固いなあ」
どうして私が呆れられてたしなめられる立場なのだろう。
無茶苦茶な事を言い出しているのは彼の方なのに。
これじゃあ、まるで常識がないのは私の方ではないか。
このままじゃあ完璧にこの人の不思議なペースに持っていかれる。
コーヒーをベンチに置き、背筋を伸ばし彼に向き合う。
一切悪びれる事のないダークブラウンの瞳は、どこまでも真っ直ぐに私を射抜いて、まるで次に飛び出す言葉を心待ちにしているかのよう。
この人と一緒にいると、空気が持っていかれる。 危険な匂いがする。深入りするのは御免だ。