【完】傷だらけのプロポーズ
基本的に人の話を聞かない人だというのは、理解した。 押し付けられたメロンパンと紙切れを捨てる訳にもいかずに手に取ったまま走り出す。
この人の空気に流されるのは嫌だ。
けれど、メロンパンは美味しかった。 懐かしい味がした。遥か昔に食べた心まで温かくなるような。
それさえ忘れたい過去。 恋なんてするつもりなかったのに、人の心の中に土足で踏み込んできて確かに私の気持ちをかき乱していた。
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「メロンパンが食べたい」
本当は心の底でどこか甘い物に飢えていた自分が居たのかもしれない。
電話番号の書かれた紙切れなど捨ててしまえば良かったのだ。 けれどもそれをひっそりとお財布の中に忍ばせる自分は情けない。
人に期待して裏切られる事、傷つく事はもう嫌だ。 どんなに甘くて美味しそうな物があっても、それに手を伸ばせばいつだって落とし穴がどこかに潜んでいる。
「何だよ、人んち来て早々。 メロンパンかー作った事がないけど、作れるものなのかな?
今レシピサイト調べるな」