【完】傷だらけのプロポーズ
帰って来てから朝比奈の部屋に電気が点いているのを確認して、部屋に飛び込んだ。
コタツに入って丸まる私を前に、朝比奈は携帯でレシピサイトを検索し始める。
こうやって図々しくも朝比奈の部屋に入るのは、現在彼に恋人がいないからだ。 そしていつだって鍵が開いている部屋とはいえ玄関の靴のチェックは欠かさない。
そんな私はとても臆病者だ。
「へー、ホットケーキミックスでも作れるんだ。 案外簡単だな、あったかなホットケーキミックス」
「そんなん作らなくたっていいよ」
お昼に結城大河から貰ったメロンパンの紙袋をコタツの上に置くと、朝比奈は不思議そうに目を丸くする。
「何だよ、買ってきたならそれ食べればいいじゃないか」
「いらないよ。あげる」
「変な奴。 んっ!このメロンパンうまあ~ッ。どこのパン屋?
何か懐かしい味がする!サクサクふわふわだ」
朝比奈は大きな口を開けて、幸せそうな顔をしながらメロンパンを頬張る。
空気のように自然に側に居てくれる人。 隣に居るのが気にならない人。
結城大河とは大違いだ。 あの人と居ると、空気が変わる。 引き込まれるようにいつもの自分のスタイルが崩されていく。
知らない自分を見つけてしまうと不安になるから、一緒に居たくない。 甘いけれど、食べやすいメロンパンは食べれば食べるほど中毒になる。