【完】傷だらけのプロポーズ

「…ねぇ、覚えてる?」

「ん~?
それにしてもうっまあ~。最近のパン屋って拘ってるから味が複雑になってるけど、こういう素朴な味の方が沢山食べれるんだよな」

「…高校の購買のメロンパン事件」

口に出した途端に朝比奈の無表情な顔。
突然真顔になるのは、不機嫌になった証拠だ。
唇を尖らせた朝比奈は「そんな昔の事覚えていない」と低い声で言った。

苛立ったようにくしゃくしゃにした紙袋をゴミ箱に放り投げた。 




いつから、恋にこんなに憶病になったのだろう。
誰と付き合っても、自分を曝け出す事が出来ずに結局別れを迎えた。

受け入れて欲しい。心の中の自分はいつだってそう言っているのに、それを言葉に出来ずにいた。


高校時代、私に初めて出来た恋人。 今日食べたどこか懐かしいメロンパン。 サクサクでふわふわ、そして甘くて切ない初恋の味がした。

あのメロンパンが食べたい。

まだ他人に期待を寄せていた、あの頃の自分に戻りたい。
ただただ純粋に誰かに恋を出来た記憶は、もう遥か昔だ。

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