【完】傷だらけのプロポーズ
「嫌がっているので離してあげてくれませんか?」
にこりと笑みを作り言うと、彼は気まずそうに眉をひそめた。
「うわ、小田切さん…!」
「嫌がっている女性を無理やりなんて、趣味が悪いですよ。」
どうして彼が私の名を知っているかというと、新入社員だった数年前私もこの男にしつこく口説かれた事があるからだ。
ちなみに相手は一切していない。仕事が出来るとは評判だったが、軽薄そうな雰囲気は昔からどうしても好きになれない。
「小田切さんには関係ないじゃないですか。俺、彼女と話してるんだけど?」
「確かに関係はないですけど彼女嫌がっているし、はたから見ててすごくみっともないんですけど、いい大人が…」
酔っぱらい気が大きくなっている男に引き下がる姿勢は見えなかった。 掴んだ手が大きく振り払われ、その反動でその場に尻もちをついてしまう。
「きゃあッ!」
真澄の小さな悲鳴が響く。
ほんっとうに最悪。 助けに入ったはいいがその場に尻もちをついてしまうなんて格好悪すぎる。
酒癖が悪いのは相変わらずらしい。 ゆっくりと立ち上がろうとしたら八田さんの腕に再び突き飛ばされる。
普段は温厚な営業マン。けれどお酒が入ると評判が悪く、暴力的になる。 今日も顔を真っ赤にして鼻息を荒くしている。