緩やかなオレンジ
母親同士が幼馴染で、大人になった今でも近くに住んで交流がある。俺と美紀も物心ついたころから遊んでいた。小学校も中学校も一緒で、高校は別々にと思っても、学校数が少ない田舎では結局同じ高校になるのだ。
ほとんど毎日美紀と会っているから、会話なんてしなくても俺との間には家族に近い不思議な感覚がある。小さい頃からそばにいたせいなのか、お互いがお互いを気にかけているからか。
ふわりと風で揺れた美紀の髪の毛先が俺の頬をかすめた。草の匂いに混じってシャンプーのだろう甘い香りが鼻をくすぐった。
俺が美紀を待たずにわざと先に帰った後の自転車置き場で何があったのかを聞きたいのに聞くことができない。美紀の口から聞くことが怖かった。
「ほんと、慎吾ってここが好きだよね。虫平気なの?」
「別に」
「暑かったり寒かったりは?」
「そんな時期は来ない」
ここは国だか県だかが管理している大型公園のはずだけれど手入れされている様子がない。
魚が生息している池は釣りもできるし、雑草をどうにかすればグランドも作れそうなほど広い。けれど俺たちが子供のころから活用されてきた記憶はない。
古いブランコや滑り台が置かれてはいても錆びて汚れている。子供のころは美紀とよく遊んだけれど、今は子供が遊びに来ている様子はない。広い敷地は夜に入ってはいけないと小さい頃から親に言い聞かせられて育つ。
「ここの公園、そのうち綺麗になって観光地になるんだって」
美紀の言葉に「へー」と返事をした。この場所がなくなってしまうことにほんの少し寂しさを覚える。
「私たちが大人になるころには景色が変わってるかもね」