緩やかなオレンジ
「俺に聞くなよ。その場で返事しなかったの?」
「考えさせてほしいって言った」
「考えることあるの? 中田先輩に告られるって女子からしたら憧れなんじゃない?」
「先輩のことは顔と名前しか知らなかったよ……」
美紀は体を起こすと膝を立て抱き込んだ。
「なんで私なんか好きになったのかな……」
「お前、顔だけは良いからな」
美紀は整った顔をしている。けれど今まで彼氏がいなかったのは俺がいつもそばに居るせいだ。周りは俺と美紀が付き合ってると思っている。中田先輩がそうだったように。
「顔だけ? 慎吾は私が顔しか良いところがないと思ってるの?」
「………」
もちろん他にもある。中田先輩よりも長くそばにいて美紀を知っているのだから。けれどそれを素直に口に出せない。
「自分が顔は良いってことは否定しないのかよ」
「私が先輩と付き合ってもいい?」
寝転ぶ俺を見下ろす美紀の顔は逆光で見えにくい。だから目を閉じて興味のないふりをする。
「お前が良ければいいんじゃん?」
「そっか……」
そう言った美紀の表情は悲しんでいるのか喜んでいるのか、目を閉じた俺には分からない。
「付き合ってみたら良い人かもしれないよね」
突然美紀が立ち上がった気配で目を開けた。その瞬間スカートの下から美紀の太ももが見えて慌てて顔を背けた。
「明日先輩に返事するね」
「お前がどうしたいかなんて俺に報告しなくていいよ。自分で決めろ」
「そうだね……」
囁くような声に俺も体を起こしたけれど、美紀は「先に帰るね」と言い残して、俺が引き留める間もなく早足で離れていった。
気がつけば辺りは暗くなってきてオレンジは見えない。白い雲は黒に変色している。