緩やかなオレンジ

「はぁ……」

俺は溜め息をつく。もしも美紀が中田先輩と付き合ったらもうこの丘には来ないかもしれない。
元々俺だけの昼寝スポットとはいえ、美紀が横にいて居心地が悪かったことは無い。それが完全に一人になるのだとしたら、俺自身もここに来るだろうか。

小さい頃から慣れ親しんだこの場所は美紀との思い出もある。近くには小学生のころ遊んだブランコも滑り台もある。錆びて軋むブランコに美紀が懐かしむこともなくなるのだ。










中田先輩が2年の女子と付き合っていると周知されるのは早かった。美紀は綺麗な顔をしているからお似合いの二人だと妬まれることもなかったようだ。
予想通りあの丘に美紀が来ることもなくなって、自転車置き場で待ち合わせて一緒に帰ることもなくなった。

同級生にはからかわれた。美紀に振られたのかと。もともと付き合ってたわけじゃないと説明するのも面倒で、否定しないままでいたら本当に美紀に振られたような気にさえなってくる。

先輩のそばで笑っている美紀は俺のそばで笑う美紀と変わらないように見えたから、俺だけが置いて行かれたような感覚になっている。
美紀を忘れるように何人かと付き合ってはみたものの長続きすることはなかった。

中田先輩が卒業して東京の大学に行っても美紀と付き合い続けているようだった。このころにはもう俺と美紀は二人で会うこともなくなって、幼馴染とはいっても距離を置くようになっていた。

卒業したら美紀は先輩を追う様に東京の大学へ進学したのだと母親を経由して知った。俺は県内の大学へ進学し実家から通った。いつまでも地元から離れないで、ずっとずっと前に進めないでいる。



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