あなたを忘れたくて、忘れたくなくて。
序章
ひらりひらり

暗く暗くどこまでも続く空から

白い柔らかい雪が舞い降りてくる。

ひらり…


ひらり……











コトコト…

コトコト…


オシャレな作りの二階建てアパートの二階角部屋。


ふんわりと食材の香りが漂ってくる。


コトコト…


夕食の準備の最中だろうか。



コトコト

コトコト…



煮込む音。食材の香り。



コトコト…



煮込んでいるガスコンロの火と
昨日より1度設定温度を高くした暖房。

カーテン越しの窓は白く曇って

ツツー

と一筋雫が垂れる。



「はぁ……。」


ため息が、ひとつ。


この家の住人_
彼女はグツグツと煮込まれている鍋をぼんやりと見つめている。


















「はぁ。」

私-佐々木ひめは本日何度目か分からないため息をついた。



夫-こうたさんの帰りを待ちながら夕飯を作るのは私の日課。


「家事は分担しよう」

と言ってくれるとても優しい旦那さん。


でも現在休職中の身で罪悪感から家事全般は私がなるべくやるようにしている。



こうたさんは身長185センチの細身。

顔はくっきり二重の誰がどう見てもイケメン。

いつも私を1番に考えてくれて、

悲しい時は慰めてくれて、

生理前後のイライラしているときも

黙って抱きしめてくれる

正に理想すぎる旦那さん。






「はぁ…」



そういえば昔、誰かが言ってた。

ため息を吐くと幸せが逃げてしまうよ

と。


でも違う。

ため息を吐いたから幸せが逃げたんじゃない。

幸せが逃げたからため息がでるんだ。


訳の分からない自分理論で自分を正当化しなければやっていけない。


今にも凍って砕けてしまいそうな心の中。

寒い…

寒い冬がやってきたのだ。




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