コイノヨカン
始まりのヨカン
出会い
目の前の景色を、私は放心状態で見つめていた。
メラメラと燃える炎と鼻をつく異臭。
時々パチンッと大きな音をたてる建物。
その度に周囲からどよめきが起き、すすり泣く声も聞こえてくる。
「何が、あったんだっけ?」
無意識のうちに口を出た言葉。
人間はあまりにも想定外のことが起こると、現実が受け入れられなくなるらしい。
「栞奈さん、大丈夫?」
すぐ耳元で声をかけられても、返事ができない。
「栞奈さん?」
え?
何度目かの声が掛かり、私は現実に戻ってきた。
「あ、あの・・・すみません。大丈夫です」
心配そうにかけられた声に、やっと反応した。
本当は大丈夫なんかじゃない。
だって、目の前で燃えているのは私の住むアパート。
中には全ての家財が詰まっていた。
朝出たときは白い壁で、バルコニーにはそれぞれのお家の洗濯物なんかが干してあったのに、今は真っ黒な固まり。
建物自体も一部崩れ落ちているところまである。
時間がたつにつれてアパートを取り囲む野次馬も増えていき、焦げ臭い臭いが充満してきた。
サイレンの音が絶え間なく聞こえ、時々悲鳴のような声も耳に入ってくる。
本当に火事があったんだ。
それでも私は人ごとのような感覚から抜け出せない。
「大変なことになったわね」
同じフロアで時々顔を合わせていた住人や大家さんが声を掛け合う。
どの人も今はなすすべなく立ち尽くしている。
さあ、これからどうしよう。
建物は全焼。
かろうじて搬出された荷物を無造作に詰め込んだ紙袋を渡され、私は途方に暮れた。
メラメラと燃える炎と鼻をつく異臭。
時々パチンッと大きな音をたてる建物。
その度に周囲からどよめきが起き、すすり泣く声も聞こえてくる。
「何が、あったんだっけ?」
無意識のうちに口を出た言葉。
人間はあまりにも想定外のことが起こると、現実が受け入れられなくなるらしい。
「栞奈さん、大丈夫?」
すぐ耳元で声をかけられても、返事ができない。
「栞奈さん?」
え?
何度目かの声が掛かり、私は現実に戻ってきた。
「あ、あの・・・すみません。大丈夫です」
心配そうにかけられた声に、やっと反応した。
本当は大丈夫なんかじゃない。
だって、目の前で燃えているのは私の住むアパート。
中には全ての家財が詰まっていた。
朝出たときは白い壁で、バルコニーにはそれぞれのお家の洗濯物なんかが干してあったのに、今は真っ黒な固まり。
建物自体も一部崩れ落ちているところまである。
時間がたつにつれてアパートを取り囲む野次馬も増えていき、焦げ臭い臭いが充満してきた。
サイレンの音が絶え間なく聞こえ、時々悲鳴のような声も耳に入ってくる。
本当に火事があったんだ。
それでも私は人ごとのような感覚から抜け出せない。
「大変なことになったわね」
同じフロアで時々顔を合わせていた住人や大家さんが声を掛け合う。
どの人も今はなすすべなく立ち尽くしている。
さあ、これからどうしよう。
建物は全焼。
かろうじて搬出された荷物を無造作に詰め込んだ紙袋を渡され、私は途方に暮れた。
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