コイノヨカン
翌朝、離れのベルを鳴らす音で目が覚めた。
起こしに来たのは見知らぬ女性。

「朝食の用意ができましたので、母屋においで下さい。奥様も大奥様もおそろいですので」
どうやらこの家のお手伝いさんのようだ。

「ありがとうございます。すぐに伺います」

私は急いで着替えると母屋に向かった。



「おはようございます」

「あら、栞奈さんおはよう」

楓さんと、昨日の女性。
どうやらこの家の奥様みたい。
と言うことは、楓さんは大奥様。

そしてもう1人、

「おはようございます」
制服姿の女の子が入ってきた。

「おはようございます」
私もたどたどしく挨拶をして、テーブルに着く。

「あのー、お名前を聞いてもいいですか?」
女の子に言われ、

「ごめんなさい。私、今井栞奈です。昨夜はお世話になってしまいました」
ペコリと頭を下げた。

「私、松田希未(まつだのぞみ)です。昨日は火事に遭ったんですってね。大変でしたね」
優しい笑顔を向けてくれる。

「ありがとうございます」

一応敬語を使ってはいるけれど、きっと彼女の方が年下。

「そう言えば、栞奈さんって今日着る服はあるんですか?」
希未さんが痛いところを突く。

実は、私も目が覚めてから気づいた。
焼け残った荷物にスーツは入っておらず、今の私には昨日着たスーツしか通勤服がない。
でもまあ、

「少し早めに出て、開いてる店で探してみます」

「この時間に開いてる店って、ドンキとか?24時間営業のスーパー?」

「まあ」

自分でもどこで買えるのか分かっていないけれど、

「よかったら私の服を着てください。いいのがあればだけど」

「そんな・・・」

泊めていただいただけでもありがたいのに、そこまでお世話にはなれない。

遠慮する私に「いいから来て」と手を引き、希未さんは階段を上がって行った。
< 10 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop