コイノヨカン
重役フロアーの片隅に用意されているラウンジ。
小さなテーブルと椅子がある中で、一番隅の席に2人で座った。

「ごめんなさいね。呼び出してしまって」

「いえ」

「どうしても1度お話がしたかったの」

「はい」

「私のことはご存じよね?」

「はい」

「実は今、渉さんとは婚約の話も進んでいるの」

「そうですか・・・」

「栞奈さんは、松田のお屋敷に住んでいるの?」

「住むというか、離れに居候させていただいています」

「それだけ?」

「ええ」

「じゃあ、出ていってくださらない?お金や、住むところにお困りなら、私が用意するから」

カチン。
何なの、この言い方。
完全に見下されている。

「大体の事情は聞いたわ。栞奈さんとおばあさまがボランティアで知り合った話しも、火事で住むところがなくなって半年の約束で離れに住んでいることも。でも、もういいでしょう?」

「約束は約束ですから」

「ハッキリ言って、迷惑なのよ」

さっきまでの優しそうな笑顔は引っ込めて、凜さんが睨んでくる。
これは想像していた展開。
だから、直接会いたくなかった。

「仕事まで失いたくなかったら、あの家を出てちょうだい」

「今はできません。楓さんとの約束なんです」

「分からない人ね。目障りだって言っているじゃない」

「・・・」
私は黙り込んでしまった。

これ以上何を言っても無駄。

凜さんは、
「住む世界が違うのに、何か夢でも見ているの?」
「権力も財産も持たないあなたに渉さんの力になることができるの?」
と、まくし立てた。

そして、
「早くお屋敷を出ないと、後悔することになるわよ」
吐き捨てるように言い席を立った。
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