コイノヨカン
デパートの紳士用品売り場。
普段あまり来ないフロアーだから、勝手がよく分からない。

スーツのコーナーに、普段着や、ジーンズ。
雑貨に、靴、カバンまで。
一体何を見よう。

「何かお探しですか?」

ええ?

聞き覚えのある声に、私は振り返った。

「あれ?岡野副社長」

「覚えていてくれてありがとう」

いかにも高そうなスーツを着て、幾分場違いな感じさえする岡野副社長。

「健でいいよ。いちいち副社長って呼ばれるのも滑稽だ」

はあ。なるほど。

「じゃあ、健さん。どうしてここに?私のことは萌さんに聞いたんですか?」

「まあね」

やっぱり。

「で、何を探しているの?」

なぜここに来たのか、それには答える気がなさそうな健さん。

「父の誕生日に何かプレゼントをと思いまして」

私もそれ以上聞かないことにした。
秘密があるのは私も同じだから。
今は黙っておこう。
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