コイノヨカン
「何で、そこまでしてくれるの?」
さすがに気になって、部屋の前で聞いてしまった。

いくら何でも親切過ぎる。

「おばあさまが、急なことで用意がないだろうから貸してあげなさいって言ったんですよ。おばあさま結構気難しい人なのに、栞奈さんの事は気に入っているみたいですね」

「そんなこと・・・」
気に入ってもらえるほどの接点はないと思うけれど。

「あんなにニコニコしているおばあさまって久しぶりなんです。最近は会社のゴタゴタもあって暗い顔ばかりしていたのに、昨日は凄くご機嫌で。だから、遠慮しないで下さい。ね?」

「う、うん」



とにかくスーツを見てと言われ、希未さんの部屋に。

うわ、かわいい。
実家にある私の部屋もこんな感じだった。
フフ、懐かしい。

大きめのクローゼットの中には、ぎっしりと詰められた洋服。
かわいい物から、パーティーで着れるようなドレスまである。
さすがお金持ち。

「これなんかどうですか?」
と、3点ほどのスーツが目の前に並んだ。

みんな綺麗なデザインのスーツ。
ちょっとカジュアルだけれど、オフィスでも着られそう。
とにかく今は、着る物があるだけでありがたい。

「本当に借りていいの?」
「もちろん」

私は一番地味目のスーツを選び、今日1日借りることにした。

助かった。これで会社に行ける。
何度もお礼を言い、私は希未さんの部屋を出ようとした。
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