コイノヨカン
日曜日
車で40分ほど走って、郊外の公園。
ちょうど晴天にも恵まれ、家族連れや若者で賑わっている。

「そんな格好もするんですね」

いつもスーツ姿を見慣れているせいか、短パンにTシャツの渉さんには違和感がある。
でも、嫌いじゃないけどね。

「スーツで自転車って訳にはいかないだろう?」
「まあ、確かに」

「その代わり、いいレストランにも行けないけどな」
「いいですよ。別に」

はああ。
渉さんの溜息。

「せっかくだから、奮発しようと思ったのに」
ブツブツと呟く。

「すみません。喜ばせがいがなくて」

「いや、いいよ」

「どうせ後2ヶ月もすれば終わりだから、最後の時には盛大にお願いします」

「・・・」
言った私も、言われた渉さんも黙ってしまった。


「じゃあ行くぞ」
「はい」

レンタル自転車を借りヘルメットをかぶって、青空の下を走り出した。

小高い山の中腹全体を公園にしてあるせいか、サイクリングコースも起伏に富んでいる。
坂を登ったり下りたり、結構いい運動。
のんびりと走って行く親子ずれや、競争のように追い抜いていく学生の集団。
みんな思い思いに自転車を走らせている。
でも、

ハア、ハア、ハア、
さすがに、坂道はきついな。

「栞奈大丈夫?」
坂道で息を切らした私を、渉さんが気遣ってくれる。

「大丈夫。日頃の運動不足が・・・」

「少し、歩く?」

「いいえ、もう少ししたら下りだから」

こんなところで、意地っ張りの私が顔を出してしまった。

「無理せずに、ゆっくり行こう」

「はい」
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