コイノヨカン
「じゃあね」
「お疲れ様でした」

駅の前で萌さんと別れ、私はいつもの道を帰った



1時間ほど電車に揺られ、お屋敷に到着。
母屋に行こうかとも思ったけれど、まずは離れに向かう。
もうすっかり元通りのはずの私の部屋へ。

フー。
玄関の前で深呼吸をして、鍵を差し込んだ。

あれ?
どうしたんだろう。

足が、震える。
2日前に見た場面が思い出されて、
ガタガタガタ。
自分でも分かるくらいに、震えている。
イヤだ、私どうしたんだろう。

その時、

「栞奈っ」
凄い勢いで走ってくる渉さん。


駆け寄ると、私の両肩をギュッとつかんだ。

「何で、何で言うことが聞けないんだ」

だって・・・

「俺は、一緒に帰るから待っていろって言ったはずだ」

「だって、凜さんと帰るんだと思ったから」

「勝手に思うな。俺の言ったことだけを信じてろ。どれだけ心配したと思うんだ」

額には汗をかき、いつもピシッと整えている髪もみだれ気味。
どうやら本当に私を心配して、駆けつけてくれたらしい。

「ごめんなさい」
納得したわけではないけれど、心配かけたことは悪いと思う。

ギュッ。
肩から手を離した渉さんが、私を両腕に包み込んだ。

抱きしめられた温かな感覚。
スーツ越しに渉さんの鼓動が聞こえてくる。
走ってきたせいか、随分早い。
それに、汗の臭い。

あれ?
渉さんのワイシャツから、香水の・・・
これは、凜さんの香り。
さっき会社でついたんだろうか?
随分密着していたから。

でも、
なんだか、
とっても、
イヤだな。
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