コイノヨカン
「ただいま」
栞奈は離れに戻ってしまい、俺は1人母屋に帰った。

「栞奈さんは?」
「1人で大丈夫だって」

「心細いに決まっているのに、何で置いてくるのよ」
母さんが怒っている。

「そんなこと知らないよ。1人がいいって言うんだから」
つい、声が大きくなった。


「はい」
食卓におかずが並び、ご飯が差し出された。

「ありがとう」

「渉、あなた変わったわね」
「そう?」

自分では、何も変わったつもりはない。

「帰りも早いし」

確かに。

「ちゃんと家でご飯食べるし」

今までだって・・・

「それに、よく笑うようになった」

「そんなこと」
「あるわ」

ハー。
母さんが溜息をつき、向かいの椅子に座った。


「あなた、最近離れに出入りしているでしょう」
「それは・・・」

「栞奈さんの親御さんが知ったら、心配だと思うわ」

「別に悪い事はしていない」

「そんな事は分かっているわよ」

母さんがこんなイライラした言い方をするのは珍しい。
俺は思い切って聞いてみる事にした。

「母さんは栞奈が俺の相手では不満なの?」

「不満と言うより、苦労をさせたくないだけ」
「どういう意味?」

ちょっと呆れたように、母さんが俺を見た。

「渉は、普通の家庭で育った人が松田の家に入るって事がどんな事か理解している?」
「別に、変わらないだろう」

世間と同じように飯を食い、仕事をして、子供を育てる。
何も特別なことをするわけじゃない。

「バカね」
冷たい目をした母さん。

俺は一旦箸を置くと、真っ直ぐに母さんを見た。
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