コイノヨカン
「楓さんとの約束があるから、だから私に付き合ってくれたんですか?」.

別に好きでもないのに、今の仕事を手放したくなくて付き合っていたの?
酷い。
少なからずドキドキしてしまった私が、バカみたい。

「違うから。今は何を言っても信じてもらえないと思うけれど、俺は本気だった。栞奈といると楽しかった。でも、あいつは違う」

苦々しい顔。

「健は、ばあさんが栞奈のことを気に入って離れに住まわせているらしいって情報を耳にして栞奈に近づいたんだ」

そんな・・・
私は、みんなに騙されていたの?

「何度も言うが、俺は本気だ」

フフフ。
笑ってしまった。

「私にそれを信じろと?」

「ああ」

「無理よ」

無理に決まっている。
今は何も信じられない。

「とにかく、帰ろう」

私は首を振った。

「どうしてもダメか?」

コクン。

「そうか」
とても寂しそうな顔。

だからってお屋敷に帰る気にはなれない。

「分かった。今日は高見さんにお世話になろう」
珍しく、渉さんが引いてくれた。

「ただし、電話は切るな。繋がらないと心配になる」

「はい」

「それから、健には会うな」
相変わらずの口調。

「いいな」
と念を押され、私はおとなしく頷いた。

とにかく今は1人になりたい。
落ち着いて頭の中を整理したい。
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