コイノヨカン
出された朝食は至って普通だった。
お金持ちでも食べるものに変わりはないらしい。

「忘れ物はないの?」
「大丈夫」
「今日は何時に帰るの?」
「そんなの、わかんないよ。遅くなるようなら連絡するから」
希未さんと奥様の会話。

微笑ましいなと思いながら見た。
高校を卒業して家を出るまで、私も母さんとこんな会話をしていた。

私だって、母さんが大好き。
でも、今度のことは言えない。
言えば心配をかけるだけだから。
それに、
お父さんが知れば、すぐに飛んでくるだろう。
そして、母さんはまた気を遣う。
それが分かっているから、話せない。



「行ってきます」
朝食を済ませ、挨拶をして玄関に向かう。

「栞奈さん」
後ろから奥様が駆けてきた。

何だろうと振り返ると、

「待っているから、必ず帰ってきてちょうだいね」
手を取って念を押された。

「はい。スーツの持ち逃げはしませんよ」
冗談めかして答えながら、ウルッとしてしまった。

この家の人はみんな親切でいい人。
一体何をしている家だろう?
大きな会社に社長さんなんだろうとは思うけれど・・・
帰ったらちゃんと聞いてみよう。
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