コイノヨカン
その日のうちに、萌さんにはおおよそのことを話した。

大学時代のボランティアで、偶然楓さんと出会ったこと。
火事で住むところがなくなった私に、自宅の離れに住むように言ってもらったこと。
家賃の代わりに、希未さんの家庭教師をしたこと。
渉さんとの約束については、言わなかった。

「で、今は付き合ってるの?」

「うーん」
どうなんだろう?

「ねえ栞奈ちゃん」

「はい」

真っ直ぐに私を向いた萌さん。

「わたしも専務に付いてそんなに長いわけではないけれど、専務ってとってもプライドの高い人だと思うの」

「ええ」
私もそう思う。

「財閥の跡取りとして生まれて、小さい頃にお父様を亡くして、一生懸命強がってきた人だと思うのよ」

「はい」

「どんなことにも負けるのが嫌いだし、他人にも自分にも厳しい人」

さすが秘書。
よく性格をとらえている。

「栞奈ちゃん」

もう一度名前を呼んで、萌さんが私を見た。

「その専務が、栞奈を頼みますって私に頭を下げたのよ。その意味が分かる?」

意味?

「きっと、栞奈ちゃんのことが好きなんだと思うわ」

「はあ」

好きか嫌いかで言うならば、私も渉さんが好きかもしれない。
でも、事態はそんなに簡単じゃない。

「雲の上の人達の恋愛なんて複雑すぎてよく分からないけれど、栞奈ちゃん自身が後悔しないようにしなさいね」

萌さんは同い年のはずなのに、随分お姉さんな気がする。

渉さんとの関係。
健さんの思惑。
凜さんの気持ち。
楓さんの考え。

登場人物が凄すぎて、うまく整理出来ないけれど、とにかくよく考えてみよう。
今正しいと思う事をすれば、道は開けるはずだから。
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