コイノヨカン

本当の気持ち

「すみません。お待たせしました」
「いいえ、私も今きたところよ」

ここは、ホテルのラウンジ。
約束の時間より少し遅れて私は到着した。
本当はかなり早く出たはずなのに、普段行くことのない場所に迷ってしまった。

「突然お呼びしてすみません」
「いいのよ」

それぞれコーヒーとオレンジジュースを注文し、それでもなかなか本題に入れないでいると、

「渉から何か聞いたのね?」
楓さんが切り出してくれた。

私は持っていたオレンジジュースを置くと、思い切って聞いてみることにした。

「なぜ、私なんでしょうか?」

それが一番気になったこと。
渉さんに落ち着いてほしいからって、相手が私である必要はないと思う。

「最初は、一生懸命ボランティアをするいい子だなって思ったのよ。お金持ちでもなさそうなのに、子供達のために働く栞奈さんに興味を持ったの。たまたま火事に遭って一晩だけ家に来ることになって、一応調べさせたわ」

それは以前聞いた気がする。

「お母さんのことも、今のお父さんのことも、大学での成績から、入社試験での評価。すべてに好感が持てた。ご両親が大事に育てられたのが分かったわ」

そんな・・・私はごくごく普通の人間。

「そんなに褒めていただくような者ではないと思いますが」

「そうかしら?少なくとも、今の渉に足りない物を持っていると思ったの」

渉さんに足りないもの?
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