コイノヨカン
日曜の夕方。
都内にある有名ホテル。
普段は会議やイベントでしか来ないところに、今日は栞奈を呼び出した。

本当はもっとゆっくり準備をしたかったが、週明け月曜からの仕事を考えて今日にした。
突然の呼び出しに断わられるかとも思ったが、出てきてくれた。

「突然、悪かったな」
「いいえ」

なんとなく緊張気味の栞奈。

「随分大人っぽい服だね」

「ええ。着替えをあまり持って出ていなかったので、萌さんに借りたんです。変ですか?」

「いや、いいよ。いつもと雰囲気が違っていい」

俺もどこかぎこちない。

「じゃあ、行こうか」
「どこへ?」
普段来ないホテルに呼び出されて、不安そうな顔。

「行けば分かるよ」
俺は栞奈の手を取ると、エレベーターへ向かった。



エレベーターで上層階まで上がり、降りたところにあるフレンチレストラン。
時々雑誌にも載る有名店だ。
普段なら前日にお願いしても予約すら取れないところを、今日は貸し切りにしてもらった。

大地のクライアントの店で融通が利いたこともあるが、松田の名前をちらつかせたのも大きい。
俺は普段こんなやり方はしない。
家の名前でねじ伏せるようなやり方は大嫌いだ。
でも、今日ばかりはそんなことを言っていられなかった。

「さあ、入ろう」

栞奈の肩に手を回し、店のドアを開けた。



薄暗い店内。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

迎えてくれた店員が、小さな灯りを持って店の奥へと案内してくれる。
進んでいく先には・・・

「うわー、素敵」
先に栞奈が反応した。

確かに、これは凄い。
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