コイノヨカン
「ねえ、栞奈はこの先どうしたいと思っているの?」

料理を食べながら、唐突に渉さんが口にした。

「この先って・・・色んなしがらみが多すぎて」
どうしたらいいか分からないのが正直なところ。

「周りのことじゃなくて、栞奈の気持ちを聞いているんだよ」

気持ちかぁ。

「じゃあ、俺が言うよ。俺はね、栞奈のことが好きだ。ずっと側にいて欲しい。きっかけはばあさんだったけれど、好きになったのは俺自身。その気持ちに嘘はない」

「渉さん・・・」
私は絶句してしまった。

渉さんは、普段ならこんなことを言う人ではない。
でも、ここは貸し切りの高層レストラン。
辺りに人はいないし、店内の照明も落とされて、テーブルの上のキャンドルが唯一の灯り。
この薄暗闇の中だからこそ、素直に言葉にできるんだと思う。

「私も渉さんが好きです。一緒にいたいと思う。でも、不安なんです」

「不安?」

「ええ。私でいいんだろうか?ちゃんとやっていけるんだろうか?凜さんの方がふさわしいんじゃないだろうかって」

はー。
息をつく音が聞こえた。

「栞奈は、それでいいの?」

えっ?

「自意識過剰に聞こえるとイヤなんだが、そんなきれい事で俺のこと忘れられるの?」

「それは」

「少なくとも、俺は無理だから。栞奈を失うなんて考えられない」

どうしたんだろう、今日の渉さんはいつもと違う。

「ばあさんとの約束も表沙汰になった今、俺には何の隠し事もない。その上で言うよ」

そう言うと、ポケットから小さな箱を取り出した。

「今井栞奈さん。僕と交際してください」

「えっ」

あまりの展開に私はフリーズしてしまった。
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