コイノヨカン
罠のヨカン

小さな意地悪

私と渉さんの交際契約は、契約の2文字がとれて本当に付き合うことになった。
当然萌さんにも知られることとなり、時々からかわれながら楽しく過ごしている。

「栞奈ちゃん。今日時間ある?」

終業時間の頃になって、萌さんが聞いてきた。

「何ですか?」

「健さんが、食事に行こうって」
ちょっと言いにくそう。

「はあ」

「もちろん、私や悠仁も一緒よ」

「はあ」
煮え切らない私。

「ダメかなあ」
チラチラと専務室を見る萌さん。

まあね、きっとダメって言うはず。

「あれから、1度も会えてないでしょ?」
「ええ」

健さんには何度か誘われている。
でも、渉さんに反対されて会えないままになっている。
萌さんだって健さんと悠仁さんに頼まれて困っているはず。
それを思うと、申し訳なさしかない。


ピコーン。
パソコンの社内メール。

開いてみると、渉さんからだった。

『今日、一緒に帰ろう』

あー。もー。

渉さんは、交際を決めてから社内メールで連絡してくるようになった。
公私混同はダメですっていくら言っても、聞いてはくれない。

「栞奈ちゃん、幸せね」

横からパソコンを覗き込んでいた萌さん。

「そうですね」
私も否定はしない。

だって、好きな人から思われているって、悪い気分ではないから。

プププ プププ
外線電話。

「はい。松田専務室です」
いつも通り出た萌さん。

「はい、はい、お待ちください」

そう言うと、専務室に電話をつないだ。
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