コイノヨカン
「えっ、渉さんの知り合いなの?」
男の子が反応した。

「そうよ。渉さんの秘書」

「秘書かあ」
どことなく軽蔑した響き。

きっと、渉さんがこの中にいても違和感がないんだろうな。
私には無理だけど。

「それにしても、随分カジュアルな格好だね」

横から現れた男性が、私の髪に手を触れた。

「イヤッ」

よけた拍子に向かいの男の子とぶつかり、持っていたグラスの中身がこぼれた。

「あー、あー、何するんだよ」

言いながら、スーツをパタパタする男性。
高そうなスーツには大きなシミができていて、叩いたくらいでは落ちそうもない。
私の服にもお酒がしみてしまった。

「困ったなあ、汚れちゃったよ」

どうしてくれるの?と、目が言っている。
本当は私の方が文句を言いたいところだけど、やめた。
今は何を言っても無駄だと思うから。

「あれー、君も濡れちゃったね。向こうで拭こうか。早くしないとシミになっちゃう」

「いえ、私は」

言いかけた私を無視して、手を引かれた。

ヤダ。
待って。

凜さんに助けをもとめようにも・・・姿がない。
嘘でしょう?

「ほら、行くよ」
しっかりと肩を抱かれ、私は引きずられた。

お願い、誰か助けて。
周りをキョロキョロ見渡しながら、「助けてー」と視線を送る。
大声を出せばいいのかもしれないけれど、なぜか出なかった。

その時、
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