コイノヨカン
「大丈夫?」

店から連れ出してもらい、健さんの車の中。

「大丈夫です。ありがとうございました」

本当にどうなることかと思った。
身の危険を感じてしまった。
今思い出しても冷や汗が出る。

「このまま送って行ってもいいけど、渉に恨まれそうだから連絡したよ」

「はい」

分かってる。
黙っておく訳にはいかない。
嫌われるかもしれないけれど、ちゃんと話した方がいいと思う。

「どこか近くの店へ入る?」

私は首を振った。

「ここで待たせてください」

私達は近くの駐車場に車を止めて渉さんを待つことにした。


「健さんは、なぜ私に優しいんですか?楓さんとの約束と関わりがあるんですか?」
ずっと聞いてみたかったことを口にした。

「始めはそれもあった。たまたま悠仁の彼女が渉の秘書で、もう1人の秘書がお婆さまのお気に入りと聞いたんだ。その子と一緒になれば会社の後継者になれるかもしれないなんて言われて、会って見たいと思った」

「好奇心ですか?」

「まあね。さすがに、後継者になれれば誰でもいいなんて思っていないよ」

「はあ」

正直、どこまでが本当なのかは分からない。
健さんって、つかみ所のない感じがするから。

「でもね」

運転席から、私を見た健さん。

「好きになったのは本当だ。うまく言えないけれど、君の真っ直ぐな性格にやられてしまったって感じかな。お婆さまが気に入るのも納得できた」

「何を言ってるんですか。私は何の取り柄もない普通の人間です」

「その普通が、いいんだよ」

「そんな・・・」
意味が分からない。

今は何を言われても、からかわれているとしか思えない。

「ほら、お迎えだよ」

楽しそうな健さんが窓の外を見た。
私は唇を引き締めて、車を降りた。
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