コイノヨカン
ゆっくりと近づいてくる渉さん。
運転席を降りた健さんも、私の横に並んだ。



「栞奈」
疲れ切った声。

きっと仕事が忙しいはずなのに、慌てて駆けつけてくれたんだ。

「ごめんなさい」
言いながら、涙がこぼれた。

「何で俺に黙って危ないことばかりするんだよっ」
やっぱり叱られた。

でも、
その表情が悲しそうで、胸が締め付けられる。

「どうして1人で行ったんだ?」
「凜さんに呼ばれて・・・」

「なんで、俺に連絡しなかった?」
「仕事で忙しいと思ったから・・・」

「仕事よりも栞奈が大事だって、何度言わせるんだっ」
「だって」

「だって?」

「私は凜さんのように、渉さんの力にはなれないから。せめて邪魔はしたくないと思って」

でも、結果がこれ。
結局、余計に心配をかけてしまった。
私はなんてバカなんだろう。

「渉、そんなに怒るな。栞奈ちゃんだって怖い思いをしたんだから」
健さんの助け船。

「ああ。悪かったな、健。ありがとう」

珍しくお礼の言葉を口にした渉さんに、健さんも目を丸くしている。

「お婆さまの目は間違ってないみたいだな」
ボソリと呟いた健さん。

「何だよ」

「いや、渉に礼を言われる日が来るなんて思ってもみなかったから・・・明日は雪が降るかなあ」
なんて失礼なことを言っている。

「やかましいっ」

やっぱり、いつもの渉さんだ。
< 158 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop