コイノヨカン
トントン。
「失礼します」

私も萌さんの後について、専務室に入った。

「今日予定の中野商事との会議だけど、2時半からの電話会議と時間がかぶるんじゃないの?」

「え?」
萌さんが慌ててる。

中野商事は、確かここから車で10分の距離。
1時から1時間予定の会議だから、2時半からの電話会議には間に合うと思うけれど。
何がいけないんだろうか?

「中野商事との会議、いつも伸びるって知ってるよね」
なかなか反応しない萌さんに、専務が口を開く。

次に萌さんから出た言葉は、
「すみません」だった。

「分かったことでしょう?いつも通訳に時間がかかって、会議自体が押して困っているじゃないか」

「すみません」
深々と頭を下げる萌さん。

それでも何かを言いたそうに、専務は萌さんを見ていたけれど、
「もういい、これからは気をつけて」
冷たい声で言い、別の書類を広げる。

「はい」
うなだれる萌さん。

仕事ってこんな物だと分かってはいる。
きっと、専務は仕事に厳しい人なんだとも思う。
でも、辛い。
私にやっていけるんだろうかと、心配にもなる。

その後、2時半からの電話会議をずらせないかと萌さんが調整したみたいだけれど、いい返事はもらえなかった。
こうなったら、中野商事との会議が時間通り終わることを祈るしかない。
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