コイノヨカン
「栞奈?」

ん？
１人考え事をしていた私を、渉さんが覗き込んでいた。

「ごめん。何?」

「来週から仕事に戻って、本当に大丈夫って聞いたんだ」

ああ。そのこと。

「大丈夫。暇すぎて、今からでも仕事に行きたいくらい」

「ならいいけど・・・」
心配そうな渉さん。

実は、心配は私の体調の事ばかりではない。
私が火事に遭ったことも、松田のお屋敷に居候していたことも、渉さんと付き合っていたことも知らなかったうちの両親が、事件によってすべてを知ってしまったショックはかなり大きかった。
もちろん私も、なぜ黙っていたんだと叱られた。
そして、
１人暮らしは許さないから自宅に戻ってきなさい。
自宅から通えないような会社は辞めてしまいなさい。
渉さんとの交際は認めない。
そう宣言された。

である以上、片道１時間半かかろうと実家から会社に通うしかない。
渉さんは迎えに来るよと言ってくれるけれど、父さんの手前それもできない。

「いっそのこと、家出でもして１人暮らししようかな」
もちろん、冗談で言った。

なのに、

「バカッ。何言ってるんだ」
本気で怒られた。

「冗談よ。できるわけないんだから」

「冗談でも言うんじゃない。みんなか栞奈を心配しているんだぞ」
私を叱る渉さん。

じゃあ、どうするんだろうか?
このままずっと父さんに隠れて会ったり、片道１時間半の通勤が続けられると思わない。

それに、私達の契約交際ももうすぐ６ヶ月を迎えてしまう。
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