コイノヨカン
**SIDE 渉**


「渉」
大地が手を上げた。

いつものバーのカウンター席。
大地はすでにグラスを空けている。

「久しぶりだな」
「ああ」

栞奈失踪事件のどさくさで、大地と飲む時間もなかったからな。

「いらっしゃいませ」

「いつもの」

「はい」
マスターとの会話も変わらない。


「大丈夫か?」
「ああ」

「嘘つけ。顔が死んでるぞ」

ったく、大地にはお見通しだ。

「彼女は?」

「栞奈は驚くくらい元気だよ。何もなかったように仕事をしている」

なぜあんなに元気なのかと、不思議で仕方ない。

「お前は?」

「俺は・・・」

どちらかというと、俺の方がまいっているのかもしれない。

栞奈の消息が分からなくなって以来、また何か起きるんじゃないかと心配で目が離せない。
その上、栞奈のお父さんには交際を反対され、堂々と会うこともできない。
すべては凛のせいだと怒りをぶつけたいのに、栞奈はそのことにも反対している。

「栞奈ちゃんと上手くいってないのか?」

「まあな」

気持ちは通じ合っていると思う。
俺も栞奈もお互いを好きでいると思っている。
でも、色々と問題を抱えすぎなんだ。
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