コイノヨカン
健に電話をかけるのは、高校生の時以来かもしれない。
そのくらい俺たちは疎遠になっていた。

父さんの弟である健の親父さんは、物静かでいい人だ。
しかし、その妻であるおばさんは野心家でうちの両親を憎んでいた。
次男あるが故に、いつも2番手で父さんの陰に隠れていたおじさん。
そのことが気に入らないおばさんは、事あるごとに母さんを馬鹿にしてあざ笑った。

おじさんには子供の頃に遊んでもらったこともある。
良いおじさんだった。
上手くいっていた。
父さんが死ぬまでは。

父さんの急死後、野心を前面に出してきたおばさんによって健やおじさんとの関係も変わってしまったんだ。

しかし、仕事をするようになった今ならわかる。
おじさんは優しくて、いい人過ぎるから経営者には向かない。
じいさんもばあさんもそれが分かっていたからおじさんに松田グループを継がせようとはしなかった。
おばさんは子会社の社長に甘んじているおじさんの処遇が気に入らないようだが、おじさんが不満を口にすることはない。
いつもおばさんの後ろでニコニコしているおじさんが、俺は嫌いじゃない。
< 179 / 236 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop