コイノヨカン
季節は秋から冬を過ぎ、また新しい春を迎えた頃。

「栞奈、お見合いをしてみないか?」
父さんが持ってきた縁談。

「えー」

嫌そうに反応してみても、父さんに言われると断れない。
渉さんとのこと以来、私は頭が上がらなくなっている。

「会うだけでいいから」
「本当に会うだけよ」
「ああ」



相手は役所に勤める公務員。
いかにも父さんらしいチョイス。

久しぶりにワンピースを着て、待ち合わせの場所に向かった。
そう言えば、このワンピースは渉さんとの初めてのデートで着た服。
高級ブランドショップに連れて行かれてビックリしたっけ。


「栞奈さん。良かったらこの後映画に行きませんか?」
穏やかな笑顔で言われ、

「はい」
素直に頷いた。

渉さんとはとうとう行けなかった映画。

ああ、なんて穏やかなんだろう。
こんな恋もあるんだなあと、人ごとみたいに思っている自分がいる。
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